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関前食堂 加藤 成崇さん

 岡村島は、広島県の呉市から橋でつながる"とびしま海道"のなかで唯一の愛媛県、今治市の島だ。そこに食堂を開いた千葉県出身の加藤成崇さん。周囲約11キロ、人口300人ほどの小さな島の小さな食堂。そこにはどんな仕事があるのだろう?

都心の生活から移住を決意

 人がとてもあったかい。それが岡村島に移住を決めた一番の理由だそうだ。加藤さんにとっては、それはとても大事なことだった。

 移住前の仕事は、蕎麦屋や居酒屋などを運営する都内の外食チェーンの工場長。セントラルキッチンで、お弁当用のキャベツ500キロを手でカット、食肉1トンをスライサーにかけ、煮物用のカボチャを1万個など、膨大な量の下処理を行い、各店舗や工場へ送る責任者だ。都内にマンションも買い、朝から晩まで忙しく働く。加藤さんの言葉を借りれば「働きづめでローンを返すだけの日々」と笑うが、それが当たり前だと思っていたある日、突然体を壊した。

 「奥さんが、今の方が幸せだと言ったんです」と、加藤さん。皮肉にも過労で体を壊して入院し、やっと夫婦二人でゆっくり会話ができる幸せに気づいたという。「この生活は本当の生活じゃないのかな?」それまでの生き方に疑問が生まれ、退院してからは妻・千晴さんと車で移住先を探すようになる。

あこがれた岡村島へ

 移住先を探すなかで、岡村島はほかとは違っていたという。「歩いていたら地元の人がミカンをくれたり、引っ越しを考えていると話すと家を紹介してあげると、みんなが親切なんです。」と、都会にはなかった人の温かみに触れ、すっかり魅了されたそうだ。そして2017年の4月、今治市の地域おこし協力隊として、念願かなって岡村島に正式に配属される。

 「協力隊として着任した当初から、飲食店をすると決めていました。」というのも、もともと料理が好きだったこともあるが、移住先を探しに岡村島に滞在した時に困ったのが食事だそうだ。島には商店が1店舗のみ、柑橘や魚介類など、魅力的な食材が多いのに飲食店が少ない。3年間の協力隊の任期中は将来の出店を見据え、島の魅力を掘り起こす活動を行った。

 商店のない岡村島では、昔からみそやしょうゆは家庭で作っていた。それがおいしいと評判だったという話から、島の高齢者たちと共にみそ作りを復活させ、「しま味噌」として商品化した。2年目には「関前食堂」という屋号も決めた。しまなみ海道沿いの島々に比べ知名度が低い関前諸島の良さをもっと知ってもらいたい、そんな思いを店の名前に込め、島の食材をメニューに加え、イベント出店を重ねて腕をみがいた。

「関前食堂」のオープン

 そうして2020年3月、地域おこし協力隊を卒業し、その年の4月に「関前食堂」が晴れてオープンする。岡村港から近い店舗は、島の"元迎賓館"だったそうだ。大正時代、石灰業で栄えた隣の小大下島を訪れた企業の要人たちをもてなした建物だという。古びて倉庫になっていたのを夫婦でコツコツとリノベーションした。テーブルやカウンターも加藤さんの手作りだ。

 店の奥では、加藤さんが朝からランチの仕込みで忙しい。店には地元客やサイクリストが訪れ、島の漁師が使ってほしいと店に魚を届けに来てくれる。時には閉店時間を超えてのんびりとおしゃべりを楽しむ客も。加藤さんが思い描いた店の姿がそこにある。

 聞けば週5日の店の営業のほか、島の高齢者の見守りも兼ねた週1回のお弁当の宅配に、デイサービスの利用者向けの食事となかなか忙しい。大変では?と尋ねると、そういえばと思い出すように「毎日忙しいですけど、大変だと思い悩むことはないですね。」と、頼もしい答えが返ってきた。都心で寝る間も惜しんで働いていた頃とは何かが違うようだ。

高齢化の島を支えていくこと

 「やらなきゃ、と思うことが多いですね。」と、島での暮らしを加藤さんは語る。2020年春から、移住者仲間たちと新しい活動を始めた。関前諸島周辺の"とびしま海道"の島々に移住者を増やそうと、「とびしまライフ」という任意団体を立ち上げ、移住希望者へのサポートを行っているそうだ。高齢化と人口減が進む地域において、若い移住者を増やすことは重要な課題であり、なにより一緒に地域を盛り上げてくれる人を呼び込みたいというのが狙いだ。

 もうひとつ取り組み始めたのが、高齢化で衰退しつつある島の一次産業の立て直しだ。すでに島の柑橘畑を受け継ぎ、無肥料・無農薬で栽培した柑橘のインターネット販売を始めた。また怒漁場で採れる"怒鯛""怒鯖"といった島のブランド魚の新しい販路も模索している。「柱としては食堂、農業も漁業もある」と、これからの島での仕事を語ってくれた。

 加藤さんにとって、仕事のやりがいはシンプルだ。島の人に喜んでもらうこと、だそう。取材をしていると、島の漁師の方が加藤さんに採れたての魚を届けに訪れ、初めて会った私たちにミカンをくださった。「島に来て生活が豊かになりました。」と語る加藤さんの言葉の意味がわかった気がした。モノではなく、人と人との温かい交流が、加藤さんの仕事の原動力となっている。その小さな島には、可能性が満ちていた。