今治の隠れた名所を、いまばりバリィさんが訪ねます
3年余り続いたコロナ禍で人気が出たのがアウトドア。密を避けて屋外で楽しむ趣味を始めた人が増えたと言われます。サイクリングや釣りなど、広々とした自然のなかで楽しめるレジャーが多いのが今治のいいところですが、ここ鴨池海岸にも自然を求めて人々がやってきているようです。バリィさんが訪ね、鴨池海岸周辺の魅力を探りました。
鴨池海岸があるのは今治市の大西町。斎灘に面し、およそ800メートルに渡り美しい白砂が広がる風光明媚な海岸です。瀬戸内海国立公園にも指定され、地元では夏の海水浴場として親しまれてきました。また夕日の名所としても有名で、10月と2月の数日だけ、夕日が歪んでだるまのように見える「だるま夕日」が現れるという、知る人ぞ知る撮影スポットでもあります。そうそう、過去には映画『がんばっていきまっしょい』のロケ地になったのも有名な話。
その鴨池海岸が最近賑わっていると聞いてバリィさんもやってきました。一体何があるのでしょう?早速鴨池海岸を訪ねてみると、早速様々な人の姿が見えてきました。家族連れがお弁当を広げてピクニックをしていたり、子どもたちが駆け回ったり、静かな海を眺めながらコーヒーを片手にのんびりくつろぐ人も。青空の下でみなさん思い思いにアウトドアを楽しんでいるようです。
ここは鴨池海岸公園。美しいビーチを目の前に緑の芝生エリアがあり、その一角にはお手洗いやシャワー室も整えられていて、なんとWi-Fiまで整備されているというからバリィさんもびっくりです。夏になれば白い砂浜で海水浴などマリンレジャーもバッチリ楽しめますね。
海岸沿いに目を向ければ、真新しい別荘が並び、オープンしたばかりだというおしゃれな一棟貸しの宿泊施設も。こちらは今治のタオル会社が運営しているんだそう。オートキャンプサイトも完備されていて、バーベキューセットやSUP(サップ)などのマリンスポーツグッズのレンタルもあって、気軽にリゾート気分を満喫できそうと市内外から注目を集めています。
そうした昼間のにぎやかな海も楽しいものですが、鴨池海岸の魅力はやっぱり夕日の美しさでしょう。あたり一面が赤から青のグラデーションに染まるマジックアワーはとってもロマンチック!散歩中に足をとめて夕日を眺める地元の方の姿もよく見られます。刻々と色を変える鴨池海岸の空と海の景色は誰にとっても特別なもの。いつまでも残したい風景です。
Photo by 竹國照顕
賑わう鴨池海岸を一望にする絶景スポットへ行ってみましょう。鴨池海岸公園の背後にそびえる標高およそ70メートルの鳶烏山(とびがらすやま)へ。案内板に沿ってゆっくり遊歩道を登っていくこと約15分、山頂にたどりつくと小さな展望台が現れます。
展望台から見えるのは、白砂が続く鴨池海岸と造船所のクレーン群。沖には村上海賊ゆかりの弓杖島と怪島、瀬戸内海の穏やかな風景が広がります。東側へ目を向ければ、遠くにしまなみ海道の来島海峡大橋と大島も。小さな山の展望台からスケールの大きな今治を感じることができます。
この鴨池海岸のあるエリアは大西町の九王(くおう)といいます。大西町にはその昔、9つの集落がありました。1890(明治23)年に九王・紺原・新町・大井浜・宮脇が合併して「大井村」に、脇・山ノ内・星浦・別府が合併して「小西村」になり、さらに1955(昭和30)年に大井村と小西村が合併。2つの村から一字ずつとって「大西町」が誕生して今に至ります。
今でこそ大西は一つの町になりましたが、9つの集落にはそれぞれの歴史や文化が息づいています。その最たるものがお祭りです。例えば九王なら、毎年5月第3日曜日の春の祭礼で奉納される龍神社の「船上継獅子」でしょう。
船上継獅子は、宮出しをした神輿が船で対岸へ渡る間にお供しながら船上で行われます。不安定な船の上での継ぎ獅子はとても珍しく、太鼓のリズムに合わせて小さな獅子児が果敢に技に挑む姿は感動的!多くの観衆がハラハラドキドキしながら見守り、技が決まると大きな歓声と拍手に包まれます。この船上継獅子の歴史は古く、江戸時代から現在まで200年以上も受け継がれてきた伝統文化。九王獅子連は愛媛県の無形民族文化財にも指定されています。
時代の変化で新しい文化が生まれつつある鴨池海岸。変わっていく風景もあれば、いつまでも変わらない歴史と伝統があります。九王の船上継獅子はコロナ禍の影響でやむなく一度中断されましたが今年(2023年)復活。人々の歓声が戻ってきました。鴨池海岸の賑わいも、古くから伝えられる伝統も、どちらも大切にしたいもの。バリィさんはその両方がある鴨池海岸がとっても気に入ったようですね。
神武天皇東征の際、このあたりで激しい嵐にあいましたが、龍神の助けで無事に九王の浜へ難を避けることができたことから、この地に龍神を祀ったのが始まりとされています。江戸時代には松山藩の雨乞いの祈禱所として地域の信仰を集めました。
普段は静かな神社ですが、5月の春祭りでは、祭神の海上渡御の先導として船上で行われる継獅子を一目見ようと多くの見物客でにぎわいます。
「凪ノ庭」は、鴨池海岸に静かに佇む築40年の一軒家です。今治出身の建築家である矢野一志さんが、お父様が暮らした家を受け継ぎ1階をリノベーション。誰もが立ち寄れる私設図書室を開きました。凪ノ庭のテーマは「つどう・つくる・つむぐ」。ここに集う人々が大西や鴨池海岸の暮らしや文化、記憶を持ち寄り、ゆるやかに引き継いでいく“地域アーカイブプレイス”になればという思いが込められています。
窓の外には鴨池海岸の海が広がり、壁にはテーマごとにぐるりと本が配されています。大西や今治にまつわる本は、矢野さんご自身が探して見つけたものや地域の方が持ち寄られたものも。スタイリッシュでいてどこかホッとする空間です。ここから人々のゆるやかな交流が生まれ始めています。