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越智商店 越智 亮太さん

 今治市国分。八百屋の一角に、自家焙煎のスペシャルティコーヒー豆を販売する小さな店がある。「越智商店」の越智亮太さんは、経験も、人も、場所も、自由に掛け合わせながら「面白い」をつくる人だ。

料理人からアート、そしてコーヒーへ

 高校時代から「仲間が集まれるような自分の店を持ちたい」とぼんやり思っていたという越智さん。カフェブームの真っただ中だったこともあり、まずは料理の経験が必要だと考え、卒業後は調理師として飲食の世界に入り、県外の居酒屋では新店の立ち上げを何店舗も経験した。「体力だけは無駄にあって、寝ずに働けたんですよ」と笑う一方で、終わりのない働き方に「40代、50代になってもこの仕事を続けていけるのか」と疑問も湧いてきた。

 そんな時に出会ったのが、あるコーヒー店の店主だった。自由に働く姿を見て「これなら80歳まで続けられるかもしれない」と思った。コーヒーにのめり込んだというより、働き方に惹かれたことが、コーヒーの世界に入ったきっかけだったという。

 焙煎を教わるようになったその店は、夏になると1か月ほど夏休みを取る。その間働く場所を失い、何をしようか悩んでいた頃、友人が紹介してくれたのが瀬戸内国際芸術祭での仕事だ。「食」をテーマに扱う現代美術アーティストのもとで、アシスタントを務めた。それをきっかけに奥能登、新潟、福島、青森と、各地の現代アートの現場を渡り歩き、手回しの小さな焙煎機を持ち込んで行く先々でコーヒーを提供した。1〜2か月住み込みで土地の人と仲良くなりながら過ごした日々は、「旅行では体験できない、土地の風土や文化を感じられた」と振り返る。

3年かけて、八百屋の一角に店をつくる

 そんな生活から腰を落ち着け、今治で自分の店をつくろうと決めた越智さん。ところが家族は、「コーヒー屋で食べていけるわけがない」と大反対。説得のため事業計画書をつくり、家族に向けてプレゼンを重ねた。掲げた目標は「50年続けること」。やろうと決めてから開店まで約3年、30歳でのスタートだった。「計画は全然思い通りにはなっていませんけどね」と笑う。

 店の場所に選んだのは、祖父母が営む昔ながらの八百屋の一角。大切にしたいと思ったのは、この地域とともにあった家族の記憶と歴史だ。店に並ぶ野菜と同じように、コーヒー豆も生産者の思いに寄り添い、吟味したものにしたかった。こうして2020年、自家焙煎のスペシャルティコーヒー豆の専門店が、八百屋「越智商店」に加わった。

「面白そう」から始まる掛け算

 越智さんがお店以外で最初に企画したのが、「法華寺ナイトバザール」だ。今治市内にある法華寺の住職から「お寺で何かやってほしい」と声をかけられたのをきっかけに、大人が楽しめる夜市をつくろうと仲間と考えた。アイデアの出発点は、「この場所でこんなことをしたら楽しそう」という直感だ。その空間を起点に人や体験を掛け合わせ、「こんなことが起きたら絶対面白いよね」とワクワクする形へと落とし込んでいく。

 こうした発想の原点は、アートの現場での経験が大きい。多様な個性を持った人たちが集まる世界で過ごすうち、人に対し自分が寛容になっていることに気づいた。アートディレクター・北川フラムさんの「一人ひとり違っているというのがアートの本当の根拠」という言葉も心に響いた。男性か女性か、出身地はどこかなど、無意識のうちにカテゴリー分けをし、その枠組みからその人の人となりをなんとなく推測して判断していた自分に気づき、「人は全員違う、そりゃそうか」とハッとしたという。

 だからこそ、投げかけたことへの反応は気にしすぎない。「イベントや企画を通じて届けたい思いはあっても、人がどう反応するかはコントロールできないですよね。そもそもコントロールする必要なんかないんです」。例えるなら、静かな湖に岸から石を投げてみる。波紋に誰かが反応すれば面白いし、反応がなくてもそれはそれで面白い。「こういうのどう?」を投げかけていく、そんな実験のつもりで続けている。

「違っていていい」を、コーヒーから

 越智さんがコーヒーを面白いと思うのは、「おいしい」の形が人によって全然違うところだ。深煎りが好きな人、浅煎りが好きな人、家ではインスタントという人もいる。味の好みは本来自由なはずが、相手の好みを否定してしまう場面がある。人それぞれの好みや違いを肯定する「違っていてもいい」という感覚を、もっと身近で緩やかに伝えたい。そう考えて始めたのが、綱敷天満神社の境内に多彩なコーヒー店が集まる「珈琲縁日」だ。

 普段は深煎りを飲む人がふらりと買った一杯が浅煎りで、「意外とおいしいかも」と思う。コーヒーをきっかけにした小さな発見が「違いを知る」入り口になる。そんな小さな変化が積み重なっていけばいい。「最終目標は、いろんな違いを面白がって認め合えるようになって、世界が平和になったらいいなと思ってやってます」そんな思いがあるという。

 もうひとつ手がけるイベント「Coffee Culture Import(CCI)」は、イオンモール今治新都市の一角で年2回開かれる、県外から浅煎りの名店を招くイベントだ。かつての体験から「酸っぱいコーヒーは苦手」という印象を持っている人は少なくない。そんな人に対して「酸っぱいけれどおいしいよ」と言葉で説得するよりも、ふと飲んだ浅煎りの一杯が「思っていたのと違って、すごくおいしかった」と思えるような、うれしい発見(いい意味でのアクシデント)を届けたいと考えている。そうして浅煎りのおいしさを知った人が、いつか越智商店にも来てくれたらうれしい。そんな思いも、もちろんある。「自分たちの店を知ってもらい、長く続けていくための生存戦略でもあります(笑)」と明かす。

「働く幸せ」はコーヒーを淹れること

 越智さんが店に掲げる言葉は「働く幸せ」。法華寺の住職に頼んで書いてもらった。イベントで行列ができ、コーヒーを淹れ続けていると、作業のようになる瞬間がある。それでもふと、「コーヒー淹れてるの、幸せやな」と思った。いろんな人にこの一杯を飲んでもらえる時間がありがたく、この言葉を掲げたという。

 気負わず、自分が楽しくなることを続ける。家族にプレゼンした「50年続ける」という目標も、案外すんなり実現するかもしれない。越智さんの働き方は、今治で何かに挑戦したい人の背中を、そっと押してくれるようだ。